amazonで2人の「空海」と出会う。
5月からも、もうそろそろお暇。今日は「緊急事態宣言」が全国で解除されたDAY。
一気に状況が変わるわけではないけれど、これから徐々に「新しい生活様式」とやらが始まるらしい…
ということで、皆さんにおかれましては、この数ヶ月、どんなインドアライフをお過ごしになりましたでしょうか?
わたしは結構NetflixやらAmazon Primeやら、動画配信サービスにお世話になっていました。
で、今回は、その中で基本、仏像・仏教好きに見てほしい2本の映画をピンポイントで紹介したいと思います。
はい。1本目は…
公開当時「ちょっとこれ仏像部で観に行こうぜ!」と主張していたにも関わらず、誰一人見に行かずに公開が終わった記憶がある、こちら。
『空海 −KU-KAI– 美しき王妃の謎』
『空海 −KU-KAI– 美しき王妃の謎』(2017/中国・日本合作)
監督:チェン・カイコー
原作:夢枕獏『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』
出演:染谷将太/黄軒(ホアン・シュアン)/阿部寛
おすすめ度:★★ (2.5/5)
いちばんの見所:6年かけて広大な沼地にゼロから作った唐の街
そうなんです、これ『さらば、わが愛/覇王別姫(1993)』で中国の歴史と愛憎を描きに描いた、チェン・カイコー監督作品。
しかも主演は、現在は信長(NHK大河)でもおなじみ、噛みごたえありまくり骨太な演技がしびれる染谷将太氏。
ポスターや予告編で感じたトンデモ感は、杞憂かもしれない。という一握りの思いを残しつつ、鑑賞しました。
が、色々な意味でトンデモだった…!
‖トンデモ①「妖術あり」という設定
タイトルの時点で、ちょっとハリー・ポッターシリーズっぽいけれども…
『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと死の秘宝』とか(夢枕獏氏が原作であること、かつ原作を読んでいれば設定に違和感はないのかもしれない?)。
トンデモ感ありとはいえ、勝手に、ベースは現実的な歴史モノだろうと思っていたため、動揺しました。
作品イチの映像美シーンもゴリゴリの妖術が前提となっています。トンデモなく、ファンタジーが濃かったことを、ここに報告いたします。
‖トンデモ② 空海というより、猫映画
「この映画のタイトル、空海じゃなくね!?」というのが直後のいちばんの感想。中国での原題は『妖猫伝』で、ポスターに猫のビジュアルも入っていて、そっちの方が偽りなしという感じ。
そう、これ猫チャン映画なんです。かわいい(?)黒猫が、最初っから最後まで、縦横無尽に駆け回ります。ちなみに、
猫チャンに取り憑かれる女優さんの名前はキティ・チャン
だそうで、チャイニーズ・ジョークきついぜ!と思いました(本当です)。
映画の概要をざっくりいうと、唐に渡った空海と、同時代に西安に生きた唐を代表する詩人・白居易(白楽天)のバディもの(原作は、一緒に遣唐船に乗った橘逸勢がバディのよう)。
名探偵空海とワトソン白楽天が王宮とその歴史にまつわる殺人事件の謎を解いていくスタイルで話が進みます。
が、空海が駆けつけたところで、結局人が死ぬ…!あんま助からない!ケースも多々見受けられるので、途中、本当に有能なのか空海…という疑念が。
解決する、というより見届けてるだけっていう。その微妙なポジションもあって、総合的に空海<猫だな、と思い至るわけです。
‖トンデモ③ すごいお金かかってる(ナイス・トンデモ)
これは、上記2つとは異なる意味でのナイス・トンデモ(?)で、どうせほとんどCGじゃろ、と思っていた建物の数々が、セットとして実在していた…!
にしては、全体に漂うチープさというか、嘘っぽさというかリゾート臭はなんd…(以下自粛)。監督のコメント動画を見ていたら「6年かけて、沼地に唐の街を作った」といってておののきました。
東京ドーム8個分のセットらしい。
まじか。かつ、事の発端は、10年前の角川歴彦会長との約束だったとのこと。そうか、そうだ、これ、角川映画だったんだっけ!そう思うと、感じてきた違和感にも、全て合点が行く感じ(個人のイメージです)!スッキリ!
セットとしては、川の上に浮かぶ妓楼(遊郭)のシーンとか、とても見応えがあったので是非。
空海自体の人物像について学べることはほぼ無いので、テーマパークでアトラクションに乗ったと思って、いっときの夢のようなファンタジーに身を任せるが吉。
さあ、書いている本人も「今回の記事長いな…」と自覚したところで、2本目いきます!
『 空海 』
『空海』(1984/日本)
監督:佐藤純彌
脚本:早坂暁
出演:北大路欣也/加藤剛/森繁久弥
おすすめ度:★★★★ (4/5)
いちばんの見所:昭和の名優たちのゴージャスな競演
‖全面協力っぷりがすごい
はい、まさかの空海2本立てです。これはやっぱり同じ記事に収めなあかんと思うじゃないですか。
この作品のwikipediaが結構面白くて、参考文献から引用したらしい、監督決定の経緯とか、脚本家の早坂暁の当時の様子だとかもちょっぴり伺えます。概要は以下。
弘法大師空海入定1150年を記念して全真言宗青年連盟映画(以下、全青連)製作本部が東映と提携して製作。真言宗は50年ごとに一大布教活動を展開しており『空海』は布教の一環となった。
全青連が映画公開前に前売り券200万枚を完売させ、これが総額で20億円とも、24億円ともいわれ、公開前から大きな興行保障を実現させた。このため総製作費に12億円の巨費が投ぜられ、当時のままの遣唐使船を建造した他、空海が密教を授けられた地である中国西安に大ロケーションが敢行された。(wikipedia「空海(映画)」より引用)
この記述が本当ならば、こちらもそれなりの(費用の)スケール感…!
しかも、書いてある通り、製作が全真言宗青年連盟で、後援には「四国八十八ヶ所霊場会」、推薦は「全日本佛教会・佛教青年会」。
協力に至っては…
長谷寺、仁和寺、大覚寺、醍醐寺、金剛峰寺、教王護国寺、観心寺…
など真言宗のお寺のほか、天台宗の延暦寺、三井寺、西明寺、
他に唐招提寺(律宗)、東福寺(臨済宗)、萬福寺(黄檗宗)、春日大社 の名前も挙がっています。つまり、
ロケがリアル寺!見切れたり、カットインしてくる仏像もおなじみのアレ!
ここは、仏像好きに強く推せるポイントですね。
‖空海、Who are you?
2018年版のファンタジーVer.空海と比べて、こちらは空海の少年時代以降の半生を描いたもの。
「空海さんってどんな人生を歩んで、どんな人だったの?」というライトな好奇心に応えてくれる作品となっています。
ちなみに、佐藤純彌監督は『新幹線大爆破』『敦煌』『男たちの大和』などで知られるミスター超大作(!)。脚本の早坂暁氏とのタッグで、あの『北京原人 Who are you?』を撮影するのは、まだ先の話である…
本作で「空海ってどんな人?」の部分に、リアルな息吹を吹き込んで、生きた人間像として感じさせてくれるのが、北大路欣也御大の名演。
空海のイメージ、完全に欣也になりました。エネルギッシュで、どっしりとしたあの感じ。2018年版・染谷くんの「動じず、常に微笑をたたえている」空海は、欣也Ver.を踏まえてのアレンジなんだろうな、と想像します。
遣唐使仲間の橘逸勢役の蓮ちゃん(石橋蓮司)の、こずるい調子のよさもいいし、まだアクティブシニアな森繁さん、帝役の丹波哲郎、中村嘉葎雄、大臣役の成田三樹夫!など、今は亡き名優もたくさん出ていて、本当、これだけでも一見の価値ありです。
‖ 愛欲にまつわるエトセトラ
そんななかでも、圧倒的な存在感と怪しさを放っていて目が離せないのが、藤原薬子役の小川眞由美!もう、ほんと、みんな観て…
自分の娘の夫(平城天皇)と懇ろになっていながら、
娘と天皇の子作りを横目に見つつ「身籠もれ…身籠もれよ…!」と呟く狂気の小川眞由美 を観て…!
この作品には、薬子エロティック(?)とは別に、危機的状況下での集団乱交(!)シーンがあったりして、「愛欲も菩薩の境地となるからアリ」的な密教の考え方が何度か形を変えて出てきます。
ここが、他との違いなのよ!という主張が感じられるというか。
製作が真言宗サイドなだけに、全体的に真言宗びいきなところもあるんだろうな、という冷静な目は持ちつつも、宗派ごとの違いも含めて、仏教自体に興味が出てくる作品ではあるので、布教映画としては成功しているのではないかなと思いました。
‖ 踊ることの、自由と解放
最後に、2018年版と1984年版を見比べて気づいたのが…どちらの作品にも、国際都市・長安の表現として、中東民族系の音楽&ダンスシーンが入っていること。1984年版へのオマージュなんだろうか。
1984年版の方では、橘逸勢がダンスを見て
「空海、なぜ日本の女たちはあんな風に飛んだり跳ねたりして踊らないんだ?(意訳)」
と言うのが印象的。この歌い踊るシーンも、作品中何度かインサートされます。女人解脱的なアレでしょうか?
開かれた都市、文化の多様性や豊かさ、自由を一発で表現できるのは、音楽と踊りなんだな、と感じ入りました。
ちなみに、2018年版では、踊り手が中国人。たぶんこれは、物語のキーになる某美女の容貌のシルクロードみと絶世感を引き立てる演出なんじゃないかな、とも思ったり。そこからも、同じ「空海」をモチーフにしながら、テーマが異なる作品であることがわかるってもんだ!
はて、長々と失礼をば、いたしました!
どちらもAmazon Prime にて追加料金なしで観られる(2020年5月末現在)ので、お暇がありましたらチェキって観てください。
今後も、他の仏教関係作品、観てみようと思います〜
2件のコメント
流浪の広島人
1984年版の「空海」、エロティックなシーンが多くて、クレームが入ったような記憶があるのですが。いや、それは「敦煌」だったか?
いずれにしても、1984年版の「空海」に興味が湧きます。昭和感満載の俳優陣、あと、確かにロケ協力が半端ないですね。
それから、2034年、真言宗1,200年記念の「空海」は、誰が主演をするのか、監督は誰か?脚本は誰になるのか?確認しないと、死んでも死にきれなくなってきました。
たなはしかり
コメントありがとうございます!当時、リアルタイムで観れていないのでわからないのですが、『空海』も十分、倫理的にアレとも取れるシーンもあるので、クレーム入っても不思議ではないですね。ぜひ、観ていただきたいです…!
そして、前作の50年後に当たる2034年の新作、気になりすぎますね。1984年当時、欣也さんが41歳なので、同じように半生を描くとなると、主演は、いま30前後の役者さんでしょうかね…(あえて二度目も染谷くん…はないか)キャストと監督やスタッフの座組み、じっくり考えてみます。
答え合わせは14年後…!生き伸びましょう!笑